はじめに

このページでは、Co-fittingのレシピ変換が「なぜ味をキープできるのか」という問いに答えるための、コーヒー抽出の基礎科学を説明します。難しい化学式は使いませんが、味の仕組みを理解したうえで変換ツールを使うと、結果を自分でチューニングできるようになります。

成分が溶け出す順番

親水性の違いが溶け出す順番を決める

コーヒーの粉に含まれる成分は、水への溶けやすさ(親水性)がそれぞれ異なります。親水性が高い成分から先に溶け出し、疎水性の成分は後から抽出されます。

大まかな順番は次のとおりです。

この順番が、よく言われる「香り→酸味→甘み→苦味→雑味」という経験則の背景にあります。

抽出の進行と成分の溶け出しイメージ

TDSと収率:味を数値で捉える

TDS(Total Dissolved Solids)

TDSは、ざっくりいうと"コーヒーの濃度を表す指標"です。TDSが高いほどコーヒーが濃いことを、低いほど薄いことを表します。

スペシャルティコーヒー協会(SCA)の基準では1.15〜1.45%が適正な濃度範囲とされています。

ただし、TDSは絶対的な指標というより、自分が複数回抽出を行った際の相対的な変化を捉えるための指標だと思っておくのが無難です。

というのも、TDSにはph値のような絶対的な較正基準が存在せず、あくまで「自分が使っている水」で較正を行うためです。

濃度測定の際はあくまで「水+コーヒー成分」の濃度を測っており、そこからコーヒー成分だけを抜き取るために予め水で構成をしておきます。

このため、同じTDSであっても、使っている水のミネラル成分の量や種類によって、コーヒー成分の量は変わります。なので、TDSはあくまで「自分の環境での相対的な濃度の指標」として捉えるのが適切です。

1.15~1.45%におさまってないからだめだ...なんて思わなくて大丈夫です。それに大事なのは、自分がおいしいと思えるコーヒーを淹れることですからね。

収率(Extraction Yield)

収率は、コーヒーの粉に含まれる成分のうち、実際に液体に抽出された割合をパーセントで示す数値です。つまり、「どれだけの成分を豆から取り出せたか」という割合です。

ちなみにこちらは、SCAの基準だと18〜22%が適正範囲とされています。

収率が低い「未抽出」状態では、酸性化合物は溶け出しているものの、甘み成分がまだ十分に引き出されていません。するどい酸味や薄さが目立ちます。逆に収率が高すぎる「過抽出」では、苦み成分やタンニン類が支配的になり、苦味や雑味が前面に出てきます。

つまり、収率を適正に調整できれば味のバランスを適正に調整できる...自分好みのコーヒーが入れられるというわけです。

TDSと収率の関係

なぜTDSと収率という"2つ"の概念を導入したのか述べておきましょう。

味のバランスを調整したいのだから、収率さえわかれば良さそうなものだ...そう思えていたら、あなたはとっても賢いです。

ところが、収率は単独では求めることができません。なぜなら、収率を求めるためには「どれだけの豆を絶対量として使い」「どれだけの成分を絶対量として抽出したか」を知る必要があるからです。

前者は豆のグラム数を計ればいいですよね。後者は...お気づきでしょうか。そう、これこそがTDS。収率を求めるためにはTDSを知る必要があったのです。

さらに詳細な話が知りたい場合は、Kenken Coffeeさんの動画がとてもわかりやすいのでおすすめします。大好きな動画です。

Co-fittingの変換が味をキープできる理由

比率変換で各投の配分を維持する

ここからは、上で説明してきたコーヒー抽出の基礎を踏まえて、Co-fittingのレシピ変換がなぜ味をキープできるのかを説明します。

Co-fittingが行う処理はシンプル、各投の湯量を「変換後の総湯量 ÷ 変換前の総湯量」という一定の倍率で掛け算するだけです。これが味のキープにつながる理由は、全体に対するの湯量配分の比率が変わらないことにあります。

つまり「全体の何%を何投目で注ぐか」という配分がそのまま維持される点が重要です。前節で説明したとおり、コーヒーの成分が溶け出す順番には決まりがあり、各投でどの程度お湯を注ぐか≒どの成分をどれくらいの量抽出するか、となっています(やや正確性に欠ける表現ですが)。この配分の比率を維持することで、変換前と同じ成分の溶け出しの順番とバランスを保てる。これがCo-fittingの変換が味をキープできる理由です。

タイミングを変えない理由

Co-fittingはデフォルトで各投のタイミング(経過時間)を変えません。これは議論の余地がある選択ですが、次の考え方に基づいています。抽出の速度を左右するのは主にお湯の温度・グラインドサイズ・粉量の密度ですが、これらはレシピを変換しても大きくは変わりません。タイミングを変えると、かえってレシピ作成者が意図した抽出の流れを壊すリスクがあります。ただし豆量が大きく変わる場合には湯の抜け速度が変わるため、タイミングの手動調整が有効なこともあります。

Kenken Coffeeさんの動画での説明

このツールを作成して少し経った頃、Kenken Coffeeさんの動画で、同様の検証が行われました。この方もほぼ私と同じ結論に至っており、かなり胸が熱くなりました...!

ビジュアルで捉えたほうがわかりやすいと思うので、ぜひ動画を見てみてください。私の説明よりもずっとわかりやすいと思います。

この方法の限界

最後に、現状の比率変換における限界も正直に述べておきます。豆量が変わると粉の密度や層の厚みが変わるため、湯の抜け具合が大きく変わってしまいます。

それ以前に、豆量が大幅に増えると「この時間内にこの量注ぎきれないよ!」という物理的な問題も出てきます。

そういった諸々があるため、豆量が大幅に変わるレシピや投数が少ないレシピ(3投以下)の変換は、味のキープが難しいです。現状のCo-fittingには、そういった限界があることをご理解いただければと思います。

まとめ:理論を踏まえてコーヒーに向き合うと何が変わるか

成分の溶け出す順番、TDSと収率、まずはこの2つを頭に入れたうえでコーヒーを淹れていくと、味を自分好みにコントロールしていけるようになります。

例えば、「雑味がひどい。粉が細かすぎて過抽出になったんだな。もう少し粒度を荒くしよう」みたいな具合ですね。

Co-fittingのレシピ変換も、こういったコーヒー抽出の基礎を踏まえて使うと、変換後のレシピを自分で微調整していけるようになると思います。こういった理論のお話が私は大好きなので、もしこのページがコーヒー抽出の理解の一助になればとても嬉しいです!